代表挨拶

 研究や開発の先にある未来を見据えたご提案をします。

   

代表取締役 中安豪

設立理由  当社は2011年に設立し、2012年から本格的に研究支援をスタートいたしました。設立の年は、大震災により日本中が混乱に巻き込まれた時期であり、これまでとは異なる働き方の必要性を感じて、日本ではまだ10件程度であったコワーキングスペースを開設いたしました。この時、大切なことは常に前に進み続ける事だと考え、会社名をロバスト・ジャパン(Robust Japan)といたしました。
翌年の2012年には、最初の研究支援業務の問い合わせがありました。私の研究支援に関する発信を見ていただき、大学で実施する研究支援業務へのコンペ参加依頼をいただいたのです。それまで私が大学内で研究者のキャリア支援業務に従事し、また産学連携の団体運営も行い、研究支援に対する考えを発信していたことが、この業務につながりました。

初期の研究支援業務  初期の研究支援は、科研費の申請者を増大させることを主目的としてスタートしました。研究支援を独自に始めようと考える先進的な研究機関においても、採択数を増やす事は数年先の目標になるくらいでした。この当時は科研費申請に対して否定的な考えの研究者も少なくない状況で、そのような研究者を相手に、競争的研究費に申請して研究を行う意義を議論することもしばしばありました。
最初の3年間は暗中模索で、支援を行う大学の研究支援責任者と課題を話し合い、まさに二人三脚で研究費の獲得について支援の形を模索していました。この中で申請書レビュー、面談、講演会、勉強会、動画講座などの研究支援サービスの基本形を作っていきました。いまの各支援メニューには、そうして考えてきた明確な目的と最適な使い方があります。

研究支援業務の発展  2015年から株式会社エデュースが営業パートナーとなり、共に研究支援を行なうようになったこともあり支援機関数は大きく増え、2022年度以降は、130機関・2000名を超える研究者の研究費申請の支援を行っております。2016年度からは、研究倫理とコンプライアンスの研修も始めました。この時期、ニュースなどで研究者に関わる不正が取り沙汰され、研究機関等でのコンプライアンス対応の強化が求められるようになったことから、ロバストへの依頼につながったものと思います。
2021年度からは「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン」の変更に合わせて、各機関で行なう研究コンプライアンスの啓発活動に用いる様々なツールを開発し、提供をはじめました。

研究支援の方針  私たちが行なう研究支援は、単に研究費を獲ることだけを目的にしているわけではありません。私たちは、本当の意味で研究がよく進むための支援を目指しています。そのために、研究者自身の思いを理解し、研究者が最善の計画を作れるようにサポートしたいと考えています。なぜなら 最善を尽くして作成した研究計画が、研究費の採否にかかわらず、研究を前に進める力になっている数多くの事例を見てきたからです。また私たちは、申請が不採択になる事にも意味があると考えています。それは、研究成果を出すための十分な準備が整っていないシグナルだと考えます。構想や準備が不十分なまま研究に着手し、時間や研究費を浪費してしまう事は、研究者にとっても社会にとっても不経済なことであると思います。研究者の方々と一緒に、しっかりとした研究計画を策定していく事によって、効率的、効果的な研究を実現したいと考えています。
このように個々の研究が良くなる事はとても大切なのですが、私たちが目指している事は個々の研究の発展だけでなく、教育・研究機関の活性化、そして組織の発展です。そのため、基本的には法人契約にて研究支援を行なっており、支援活動後の報告書において組織の研究支援活動に対する提案を行なっています。組織の活性化が難しい要因は様々あり、介入方法も様々に検討する必要があります。例えば、申請は継続しているけれど採択にならない研究者が多くなると、徐々に惰性で申請する風潮となり、本気で採択を望めなくなります。そのような場合の支援は、面談や勉強会を行い、研究計画作成の初期において、採択になる研究計画の要素を掴んでいただくことを目指します。まず研究者が積極的に研究計画に向き合えるように支援を考え、各機関内のURAや事務担当者の方々としっかりとコミュニケーションをとり、適切な連携をとっていくことで、効果的な研究支援が実現できると考えています。そうして研究者が競争的研究費にチャレンジする環境が出来上がれば、研究はもちろん教育面にも良い影響がでます。学生においても新しいことに対するポジティブな意識が醸成されていくものと思います。

レビューと面談(個別支援)の位置づけについて  私たちは個々の研究者の研究計画に対する課題に合わせて、レビューか面談、若しくはその両方で支援を行なっています。レビューは申請書の完成を目指したコメント(意見書)の提供であり、面談は研究計画の再構築を目指したディスカッションです。研究計画を構築してゆく初期段階において、様々な情報を確認しながら戦略立てをする事は、その後の申請書ブラッシュアップのプロセスの効率化にも大きく影響します。残念ながら、申請書を基にするレビューにおいては、書かれた事から判断するしか無く、書かれていない要素を含めて検討を行なうことができません。不採択が続く場合には、大きな計画の再構築が必要な場合もあり、そのときには申請書に書かれていない事項まで範囲を広げて考えることが必要になります。何も決まっていないような段階にこそ面談は有効であり、私たちはその段階から一緒に考える事を大切にしています。一方レビューは申請書を緻密に詰めていく作業であり、ディスカッションで詰めるとあやふやな部分が残りがちです。この段階は文章で細かく確認を取りながら、研究計画の全体構成や段落における主張など、上手く整理していくことを大切にしています。

科研費に対する分析  現在ロバストでは、科研費の研究計画調書を客観評価する場合は、「研究課題の学術的重要性・妥当性」「研究目的、研究方法の妥当性」「研究遂行能力及び研究環境の適切性」の3つの評定要素をさらに細分化した16要素を使います。研究計画調書に書くことが推奨される要素は多数ありますが、頁数の制限がある事から、必須要素を外さないことが重要になります。理系から文系まで各審査区分における必須要素が何か、分野特性を考慮に入れてこの必須要素を理解するために、支援対象の全てについて16要素評価を行ない、採択傾向の分析を行なっています。またKAKEN(科学研究費助成事業データベース)を活用して審査区分における主流テーマを確認しています。これにより、審査区分の価値観を把握したうえで、研究者自身のポジション、研究の価値を伝える手立てを考えていきます。

個別支援において重視していること  近年は、基盤研究(S)や学術変革領域研究などの大型の科研費、JST案件も多数ご相談いただけるようになりました。このレベルでは多面的な検討が必要となるため、研究者の所属機関のURAとも連携して支援することが多くなりますが、私たちは特に研究計画の目利き能力で貢献していきたいと考えています。数多くの機関、数多くの研究者の支援をしているため、個々の支援は薄くなる事を心配される事も少なくありません。しかし私たちは数多くの研究計画を支援することで目を養い、研究計画の価値を見いだし、その価値を伝えるお手伝いをすることが最も重要だと考えています。
当社のレビュアー(研究支援者)は、個々の経験と知識を活用して研究支援を行うのですが、俗人的な要素に依存して支援を行うわけではありません。各年度で全レビュアーが数十時間の研修を受け、支援の方向性やレベル調整を行っています。いま在籍している当社のレビュアーの経歴は、様々です。多くは各分野で博士の学位を取得し、研究者の経験を持った人たちです。いわゆる名誉教授クラスの方々も主力として働いていますし、海外で多様な経験を積んだ修士の方、資金配分機関で経験を積んだ方や企業において研究部門を率いてきた方もおります。この多様な視点に基づき、申請者が新たな発見が行えるように、核心的な問いかけを行うようにしています。

講演会と勉強会の位置づけ  研究支援を考える機関等において、まず講演会や勉強会を実施することは一般的です。著名な講師や学内の研究者から、研究計画調書作成のノウハウをお話いただく事も多いかと思います。私たちもその要望に即した講演会を行なっておりますが、いわゆる書き方テクニックのような内容は多くありません。私たちが話す主な内容は、「文章による説得」をおこなうための構成要素の定義、要素の細分化、そしてその繋がりです。科研費制度改革以降は、「研究における学術的『問い』」が重視されていますが、その『問い』の捉え方、研究計画の「整合性」に重点を置いて講演を行なっています。講演会は主に公募要領の公開前後の時期から行なっており、最新の動向などをふまえて、申請戦略を考えていただく機会にしています。
勉強会は、面談の補完策としてスタートしました。研究構想をディスカッションできるほどアイデアがまとまっていなかったり、テーマの選定に悩んだりしている段階の研究者は、面談するにも躊躇があります。研究費に関する基礎的な知識の説明、研究構想をまとめるためのフレームワークの解説、そして研究者自身で計画を検討するワークを実施する事で、研究計画の骨子をまとめる機会にしています。講演会よりも基礎的な段階の検討を行なうために、勉強会の実施時期は公募要領発表の1ヶ月~半年前に行なう事を推奨しています。
講演会、勉強会は、それぞれ別の趣旨で行ないますが、いずれも真の目的は、研究費申請に対するモチベーションアップです。研究費申請にあたって不明な要素が多く、迷っている時間が多くなると、研究者のモチベーションは途切れがちです。そのような不明、不安を解消する事で、研究費獲得に対する研究者の気持ちは維持されます。

動画講座を作成した理由(競争的研究費のノウハウ提供)  講演会や勉強会によって、研究費申請に対するモチベーションは確実にアップされます。しかし60~120分程度の内容だけでは、申請書作成に十分な情報を提供することは不可能です。そして、講演を聴いただけでは、上手くノウハウを使いこなすことも困難です。そこで私たちは、広範な研究費獲得に役立つ情報、ノウハウの提供をオンデマンド動画の形で行なう事にしました。2023年度現在では、約80コンテンツ、12時間超の内容まで拡充されています。公募要領等の毎年更新される情報から、「学術的『問い』」を多面的に検討、解説したオリジナルコンテンツまで、年々アップデートを重ねています。これにより、レビュー等の支援対象者から個別支援に対して消極的な研究者まで含み、全体として有効な研究支援が行えるようになりました。

研究倫理・コンプライアンス研修について  研究倫理・コンプライアンスについては、研修(講演)と啓発活動の支援を行なっています。研究倫理・コンプライアンス研修は、APRIN、eL CoREなど公的のものがある中で、なぜ私たちが行なっているのか、疑問にもたれると思います。私たちに最初に研究倫理・コンプライアンス研修の依頼があったとき、いろいろな不正事例や教材を調べた結果、知識と意識のバランスが問題であると考えました。公的なコンテンツは研究倫理・コンプライアンスに関する様々な知識を提供していますが、当事者意識を持つのは難しいものに感じました。そこで私たちの研修は当事者意識、危機感を持って頂くことを主眼に置き、事例の紹介などを通じて、研究者の方々が無自覚に不正を行なうリスクに警鐘を鳴らす内容としました。毎年発生する不正事例を取り入れつつ、最新動向を反映した内容とすることで、受講者に飽きが来ないように考えています。啓発活動は、まさしく意識を高める目的である事から、メール記事やポスター、ショートアニメーションなどを利用して、研究倫理・コンプライアンスに関わる情報や事例を提供しています。

研究支援者(リサーチ・アドミニストレーター等)への対応  ロバストは、研究支援者のキャリアモデルを確立することも一つのミッションとしています。リサーチ・アドミニストレーターの王道は、研究機関等でキャリアを積むことと思いますが、この他にもキャリアパスが存在することは、研究支援に従事する人にとって重要な事と思います。
私たちが研究支援を始めた頃は、リサーチ・アドミニストレーションの認識が少し広がりだした時期でした。2011年度に始まった文部科学省「リサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」事業以後、「スキル標準」や「研修・教育プログラム」が整備され、これらのコンテンツを学んだ方にもしばしばお会いするようになりました。しかしリサーチ・アドミニストレーショの領域においても継続的なスキルアップは重要だと思われ、そのために十分な実践が必要と考えます。その経験のための案件が集まるように、様々な機関との良好な関係を構築し、多くの申請案件を頂ける仕組みを整えて参りました。そうした蓄積を基に、研究機関に対して研究支援者の教育コンテンツの提供も行なってまいりました。私たちは民間企業ですので、そこでの経験の蓄積によって、徐々にアカデミアの研究から遠い産学連携コーディネーター業務や開発コンサルなど、幅広いキャリアパスの開拓が可能になると考えています。

今後の展望  私たちが最終的な目的としていることは、
「日本全体として研究の効率が向上すること」、「研究に関わる人が増えて研究力が増大すること」、
「信頼できる研究成果が生み出される環境を作ること」です。
これには、適切な研究計画を作成するスキル、周囲の理解を得るプレゼンスキル、適切な判断に基づく研究マネジメントスキルが重要になると考えています。こうした力を十分につけていくために、ベテラン研究者の方々、また開発や産学連携で実績を残してきた企業出身の方々に協力していただき、その蓄積してきたノウハウを活用してプレアワード、ポストアワードの研究支援を行なっていく必要があると考えています。また、研究機関においても効率化を求められるようになって、定常的な人材不足の状態に陥っているとも思います。このような課題に対して、研究に対する情熱はあるものの、若くしてアカデミアを離れた人材、年齢が理由で自身のスキルを生かせないベテラン研究者など、様々な人材をストックし、活躍してもらえるシステムを構築して対応していきます。また今後は、倫理審査の支援や大型プロジェクトのマネジメント支援など、多様なサービスを充実させ、地域や組織形態にかかわらず研究を発展させられるお手伝いをしていきたいと考えています。